女性の体は閉経を迎えると体内で卵巣から分泌される女性ホルモンのエストロゲンが不足し、体のさまざまな機能が不調をきたします。
これは脳が卵巣に対してエストロゲンを分泌するようにシグナルを送るとき、脳が不要な興奮を起こして自律神経の調節がうまくいかなくなるためですが、日常生活に支障が出るような症状が更年期障害と呼ばれ、治療が必要になる場合もあります。
また、HRTはもともと女性に体内にある女性ホルモンを使った治療法のため、日本をはじめ世界各国に長期データがありその安全性と有効性が確認されています。
目次
HRTを受ける際の診察方法は?
HRTを受けるためには、まず医療機関を受診する必要があります。更年期障害の自覚症状があるのであれば、ひとりで悩まずに、医師の診察を受けるようにしましょう。
このとき、医師とスムーズにコミュニケーションをとるには、更年期障害に関する症状をあらかじめメモするなどまとめてから医療機関を受診するようにします。
医師による問診が最初
HRTを受ける際にはまず医師による問診が行われます。問診では、これまでの病歴や現在の体の状態や症状についての確認があるか、問診票に記入する場合もあります。
問診内容としては、月経の有無のほか、閉経からの期間、周期や量、最終月経の時期などの確認があります。
そして、現在本人が受診している病気の有無や、過去にかかったことのある病気、家族がかかったことのある病気などに関する質問もあり、特に子宮や卵巣、乳房の病気の有無の確認は重要です。
また、このとき現在困っている症状も忘れずに医師に伝えるようにしましょう。
子宮や卵巣、乳房の検査
検査の内容は問診の結果やそれぞれの状態によって変わってきますが、原則としてHRTを行っても問題がないか、また、子宮や卵巣、乳房の検査が行われます。
まずは血圧、身長、体重測定といった基本的な検査が行われ、血液検査も実施されます。
このとき、6ヶ月内に特定健康診査や人間ドックなどで血液検査を行っていればこれで代用が可能です。
次に、子宮頚部や内膜、卵巣の検査を超音波や細胞診によって行いますが、子宮頚部細胞診に関しては、1年以内に行っていれば、検査の必要はありません。
そして、乳房の検査として、触診やマンモグラフィー、超音波診断などが行われます。
このほか、骨量測定による骨粗しょう症や心電図による心臓の検査、甲状腺や血液の固まりやすさの検査、心理テストなども行われることがあります。
ただし、検査項目については医療機関の検査設備や、医師の治療方針などによって追加されたり省略されることがあるのでこの限りではありません。
HRTの種類は主に3種類
現在、日本国内では、健康保険適用となる薬の種類は、飲み薬と貼り薬(パッチ)、ジェル剤の3つのタイプとなっています。
この中で飲み薬と貼り薬は、エストロゲンだけの薬と、エストロゲンと黄体ホルモンの両方が含まれている配合剤があります。
黄体ホルモンが含まれているのは、エストロゲンが子宮内膜が増殖するのを抑制するためのものですが、手術により子宮を摘出した女性は必ずしも必要ではありません。
飲み薬(経口薬)
エストロゲン単剤のものと、黄体ホルモンであるプロゲステロンの単剤、エストロゲンとプロゲステロンを両方配合した配合剤の3種類があります。
飲み薬は胃腸から吸収されたあと、肝臓を経由して血液中に入ります。
胃腸や肝臓に負担がかかるので、胃腸の調子が悪いと服用できない場合があります。ただ、弱めのエストロンゲン(エストリオール)もありますのでまずは一度相談してみてください。
貼り薬(パッチ)・ジェル剤(塗り薬)
貼り薬とジェル剤には、エストロゲンが配合された貼り薬とジェル剤と、エストロゲンとプロゲステロンを配合した貼り薬があります。
含まれている成分は皮膚から直接吸収されて血液中に入るので、飲み薬よりも胃腸や肝臓などへの負担が少ないといわれています。
ただし、かゆみやかぶれといった皮膚症状が出ることがあります。
HRTのメリット・デメリットと海外事情
HRTにおいては、あいまいな知識のもと、漠然と不安を抱いている方も少なくありません。とはいえ、HRTに限らず、あらゆる薬にはメリットとデメリットが存在します。
HRTを選択するにあたっては、投与をすることによってメリットがデメリットを上回ると判断されたときに行うことが大切です。
HRTのメリット
まず、HRTを受けることによるメリットですが、ほてりや発汗といった更年期特有のホットフラッシュと呼ばれる諸症状を緩和してくれます。
また、脂質代謝が改善され、血圧が調整されるので、コレステロール値や血圧の上昇を抑制し、動脈硬化や心筋梗塞といった心臓血管系の疾患を予防する効果もあります。
また、骨粗鬆症による骨折のリスクが減少し、老後のQOL(=Quality of life)つまり生活の質が高まることも挙げられるほか、アルツハイマー型の認知症への効果も報告されています。
このほか、適切に用いることで、肌はみずみずしさと張りを取り戻しアンチエイジングの観点からも効果が期待できます。
HRTのデメリット
HRTの副作用としては不正出血や乳房のハリや痛み、おりもの、下腹部のハリ、吐き気などが挙げられます。
ただし、これらは薬の頻度や量を調節することで改善することが可能です。
また、乳がんや子宮がんを発症していたり、血栓症の治療薬を服用している、あるいは脳卒中や心筋梗塞を起こしたことのある場合はHRTを受けることができません。
このほか、HRTは海外の研究結果によって乳がんの危険性が高いという報告がされたことがあります。
むしろアメリカの研究においては、乳腺の病気にかかったことがあったり、乳がんになった家族がいる、出産経験がないといったことのほうが、乳がん発症の危険性が高いという報告がされています。
HRTの海外事情
日本においてはHRTは更年期障害の治療法としてまだまだ一般的ではありませんが、欧米では15年から20年以上の歴史があり、貼り薬やジェル剤が多く用いられ、一般的な治療法となっています。
日本ではわずか1、2%の普及率に過ぎませんが、最も高いのはオーストラリアで5割以上、ヨーロッパでも3割から4割の普及率となっています。
ただ、日本でも徐々にHRTは広まりつつあり、対応した医療機関も増加傾向で、今後に期待が寄せられています。
HRTは以前よりも気楽に受けられる療法になりつつある
最近では更年期障害に関する情報も増加しており、単に我慢するだけでなく、医療機関を受診し、適切な治療を受けるケースも少なくありません。
HRTに関しても、正しい知識を持って治療を継続すれば更年期障害の辛い症状に悩まされず、日常生活が大きく改善する可能性があります。
かつては更年期障害は生命にかかわる病気ではないと積極的な治療が行われていませんでしたが、現在では理解のある医師も増加しています。
更年期障害の辛い症状が現れたら、ひとりで悩まずに、医療機関を受診し、相談をしてみることが大切です。